カイレン・パリスの躍進と課題

エンゼルス

はじめに

2025年のMLBが開幕して1ヶ月が経過しました。予想外の選手の活躍、スター選手の不振などすでに様々なことが起こっていますが、そんな中でこの1ヶ月(特に上旬)注目を集めた選手の一人に、ロサンゼルス・エンゼルスのカイレン・パリス(Kyren Paris)がいます。

今回はパリスの躍進の要因と、今ぶつかっている壁、今後の課題などについてご紹介します。

苦難の2024年以前

パリスの2024年シーズンは苦難の連続でした。わずか21試合の出場で、打率.118(51打数6安打)、1本塁打、5打点、1盗塁という控えめな成績に終わり、OPSはわずか.440と打撃面での苦戦は火を見るより明らかでした。

さらに怪我の影響で、メジャーとマイナーを合わせても出場試合数は81試合にとどまり、マイナーでの成績も打率.167、OPS.532と全く結果を残せず、プロの投手に適応する難しさを痛感するシーズンとなっていたのです。

そんな中でも、5月22日にはヒューストン・アストロズのハンター・ブラウン(Hunter Brown)からメジャー初本塁打となる2ランホームランを放ち、チームを2対1の勝利に導くという、苦しいシーズンの中で数少ないハイライトシーンもありました。

成績は振るわなかったものの、エンゼルスはパリスに対して依然として高い期待を寄せていました。というのもパリスは2019年のドラフト2巡目指名選手であり、2024年開幕時にはチーム内プロスペクトランキングで4位と高評価を受けていたからです。特に圧倒的なスピードや守備面での多才さは、チームにとって大きな魅力でした。

パリスの2023年から2024年にかけてのOPSは.378と、100打席以上立った選手の中でMLB最低クラスの成績でした。要するに、2024年はパリスにとって怪我と不安定なパフォーマンスに苦しんだ「学びの年」となり、2025年シーズン開幕時の意外な躍進への伏線となったのです。

覚醒の2025年

パリスは2025年シーズン開幕時、エンゼルスの開幕ロースター入りすら予想されていない存在でした。しかし、レギュラーショートのザック・ネト(Zach Neto)の負傷離脱をはじめとする複数の事情によりチャンスが巡り、パリスはそれを見事にものにしました。

2025年シーズン序盤、パリスはいきなり驚異的な打撃を披露します。最初の14試合で打率.368、出塁率.467、長打率.842をマークし、5本塁打、5盗塁を記録するなどリーグを席巻する活躍を見せ、打撃力、走塁、出塁能力のすべてを兼ね備えたリーグ屈指の選手となりました。

実際、開幕から最初の10試合で11安打、5本塁打、4盗塁、4四球を記録したのは、エンゼルス史上初であり、現代野球においても1997年のラリー・ウォーカー(Larry Walker)と1983年のゲイリー・リーダス(Gary Redus )の2人しか達成していない快挙でした。開幕から10試合終了時点でのOPS1.653(最低30打席到達)は、MLB史上2番目に高い数字で、これは1928年のジミー・フォックス(Jimmie Foxx)に次ぐ記録。この異次元の活躍により、パリスはスーパースターたちと比較され、序盤の各種リーダーボードでも上位に名を連ねました。シーズン最初の2週間で早くも1.3fWARを積み上げ、全野手中3位にランクされた時期もありました。

この大ブレイクは、これまでのパリスの成績からは想像もできないものでした。前年までメジャー91打数で本塁打はわずか1本だったパリスが、2025年にはわずか25打数で5本塁打を放ったのです。エンゼルス監督のロン・ワシントン(Ron Washington)も驚きの表情を浮かべながらも、「9試合で殿堂入りできるなら、殿堂入り選手は山ほどいるだろう」と冗談交じりにコメントし、このブレイクに対する周囲への冷静さも求めました。

パリスの序盤の活躍には、4月9日のタンパベイ・レイズ戦でのキャリア初となる1試合2本塁打(いずれも逆方向へのアーチ)も含まれていました。さらに、試合終盤に勝ち越し本塁打を放つなど、勝負強さも発揮。長打だけでなく、俊足を活かして序盤数週間で5盗塁を記録し、セカンドとセンターの両ポジションを器用に守るなど、守備でも貢献しました。パリスの台頭は、エンゼルスが2025年シーズンを9勝6敗の好スタートで切るうえで大きな要因となり、ベテランスターたちのスロースタートを補う形となっていたのです。

覚醒の裏側

この覚醒はたまたま、もしくは一時的なものなのでしょうか。専門家たちは、パリスのブレイクが単なる幸運ではなかったと指摘しています。それは、彼自身のスキルとアプローチの大幅な改善によってもたらされたものだと言うのです。

大規模なスイング改造

パリスは今年のオフに大規模なスイング改造に取り組みました。さらなるパワーと一貫性を求めて、アーロン・ジャッジ(Aaron Judge)の個人打撃コーチであるRichard Schenckのもとを訪れ、指導を受けたのです。この取り組みにより、パリスの打撃メカニクスは「完全に変わった」とされ、Judgeに近い力強いスタイルに生まれ変わりました。

パリスによれば、現在は前足を「ホバー」させるような動きに変え、フィニッシュも異なる形を取ることで、より長くボールを引き付けることができるようになったと語っています。具体的な変化としては、バッターボックス内での立ち位置が非常に深くなったことが挙げられます。

現在Parisはプレートから約37.5インチ後方に構えており、これはMLBの中でも最も深い位置取りです。さらに、スタンスも大きくオープンに変更しており、2024年はわずか3°だったオープン角度が、2025年には53°に広がりました。この構えにより、ボールをより深く引き付け、投球を見極める時間を稼ぐことができるようになったのです。エンゼルス担当記者Rhett Bollingerも、「Parisはボールを深く引き付けることで、反応する時間を得ている」と分析しています。このフォーム改造と強化されたフィジカルが、彼の持っていたナチュラルなバットスピードとパワーを解放しました(下の画像の左が今年、右が昨年、2025/4/28時点)。

実際、データもこの進化を裏付けています。昨年までは弱い打球が多かったパリスですが、今年は現時点でバレル率が17.9%に跳ね上がり、以前までの約5%から大きく改善。ハードヒット率も約51%と、過去と比べると見違えるほど強い打球を打てています。バットスピードも約1.5マイル向上し、スイングプレーンの改善により打球の平均角度も上昇、より打球を空中に飛ばせるようになりました。その結果、期待値に基づくwOBA(xwOBA)は一時.467に達し、トップ打者と肩を並べるレベルに到達しました。

パリス自身も「昔からパワーはあったが、今はより一貫してバレルに当てられている。それが今起きていることだ」と語っています。失敗から学び、オフシーズンを通して努力した成果が結果として現れているのです。また持ち前の身体能力も発揮し、4月だけで5盗塁を記録しました。スタンスとスイング改造によってパワーを引き出しながら、エリート級のスピードを失うことはありませんでした。

精神的な安定

パリスのブレイクを支えたもう一つの要素は、チャンスと自信でした。ワシントン監督の下で、パリスは4月にコンスタントに出場機会を得て、時には上位打線を任されるなど、役割を広げていきました。ネトの離脱により生まれた空席を、パリスはセカンドとセンターを柔軟に守ることで埋め、チームにとって不可欠な存在となりました。継続的な打席機会によりリズムを掴み、自信を深めたことが好循環を生みました。

左右全方向に打球を飛ばす成熟した打撃アプローチを見せるだけでなく、過去に苦手だった球種にも対応できるようになりました。たとえば昨年まではスライダーに対して一本もヒットを打っていなかったにもかかわらず、今年はスライダーを捉えて本塁打を放つシーンも見られました。このように、メカニクス、アプローチ、起用法すべての面での進化が、パリスの大躍進を支えたのです。

直面している壁

しかしながら、現在パリスは相手チームの対応に苦しみ、壁に直面しています。2025年4月中旬から下旬にかけてスランプに陥り、ある8試合の区間では17打数1安打、10三振という苦しい成績に終わりました。一時は7試合連続無安打、12三振も経験し、4月上旬に.400付近を保っていた打率は、4月28日時点で.231にまで急落しました。

当然ながら、リーグの投手たちはパリスの新たな打撃スタイルの弱点を突き始めました。パリス自身も「投手たちはこれまでと違う攻め方をしてきている。特にインサイドへのシンカーが増えている」と語っています。実際、サンフランシスコ・ジャイアンツやミネソタ・ツインズの投手陣などは、インサイドの速球やシンカーでパリスの長く伸びたスイングを詰まらせにかかりました。これは、ルーキーが鮮烈なデビューを飾った後にMLBでよく見られる「カウンターアジャストメント」であり、映像データが蓄積されることで、投手たちが打者の弱点を突くパターンを見出すのです。

また、パリスの攻撃的なアプローチには元々懸念材料がありました。好調時でも空振りが多く、実にスイング全体の約45%が空振りで、これはMLB全体の下位1%に位置する水準です。さらに、ゾーン外のボールに手を出す割合も約30%に上昇し、前年の20%から悪化していました。これらの傾向が災いし、投手たちが甘いボールを避けるようになると、打ち損じや三振が増加していったのです。ピーク時にもあるアナリストは、「いずれ投手側が対応してくる。パリスがそこにどう適応するかが鍵だ」と警鐘を鳴らしていました(下の画像は4/28現在のsavant)。

エンゼルスはこのスランプに対して積極的に支援を行っています。ワシントン監督はパリスに数日間の休養を与え、冷静さを取り戻す時間を設けました。また、「彼はまだ若い。今、彼はゲームとは適応と再適応の連続だということを理解し始めている」とメディアに語り、成長過程にある23歳の選手には変化への適応力が求められると強調しました。

パリス自身も冷静に状況を受け止めており、「より良い球を選んで打つだけ。それができれば良いスイングができる」と話しています。つまり、インサイドの厳しいシンカーを見送る選球眼を身につけ、自分が仕留められる球を待つことが課題であると自覚しているのです。

チームもパリスに対する信頼を失っておらず、ワシントン監督は「彼は必ず適応して、このスランプを乗り越えるだろう」と期待を寄せています。4月28日時点でも、24試合で打率.231、5本塁打、8打点、5盗塁、OPS.823という、序盤の猛打に支えられて立派なシーズン成績を維持しています。今後は、投手たちの新たな攻めに対してどう適応し、どのように安定感を取り戻せるかが大きなカギとなるでしょう。

おわりに

昨年から今年序盤にかけてのパリスの歩みは、才能あるプロスペクトがメジャーに適応していく過程を象徴するものでした。ジャッジの打撃メカニクスに基づくスイング改造や、攻撃的な打席でのアプローチ、そして徐々に身につけた自信が、目に見える成果を生み出しました。

野球記者Brent Maguireは、パリスについて「彼の好スタートはまやかしではない。今季ここまで、トップクラスの打者たちに肩を並べるレベルで本当に打球を叩いている」と評価し、優れた期待指標に言及しています。一方で、高い三振率は依然として懸念材料であり、投手たちはパリスのスイングの弱点を突き始めており、パリスは現在壁にぶつかっている最中です。

パリスはその壁を乗り越えようとしている最中です。今後、さらに選球眼を安定させることができれば、エンゼルスにおける将来の主力として地位を確立できるでしょう。

あるレポートが述べたように、「パリスは今年、完全に別人のように見える」のです。2025年現在、カイレン・パリスは若きMLBプレーヤーとしての「刺激的な可能性」と「成長に伴う困難」の両方を見事に体現しています。今後どのような姿を我々に見せてくれるのか、注目して見ていきましょう。

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