2025年シーズンのハビア・バエズは打撃で復調し、5月中旬時点で打率.300、出塁率.336、長打率.455、wRC+127を記録しています。表面上の成績が大幅に向上した一方で、savantの打撃指標は以下のように真っ青です。今回はバエズの好調の要因を探っていこうと思います。

Statcastの打撃指標から見る2025年好調の要因
記事の最後に大いに参考にしたサイトを掲載します。ぜひ併せてご覧くださいませ。また記事内の成績は5月半ば時点でのものとなっています。あらかじめご了承ください。
予測成績 (xwOBA) と実績のギャップ
2025年のバエズはwOBAが.367と好調ですが、Statcastの算出するxwOBAは3割ギリギリで、2024年(xwOBA .264)から大きな改善は見られません。したがって、幸運による部分も大きいことが示唆されます。例えば、打率.300に対しxBA(予測打率)は.250ほどと大きな差があり、高いBABIPや当たり損ないのヒットなどで実際の成績を押し上げている可能性があります。

三振と四球傾向の変化
バエズは元来三振が非常に多く四球が少ない打者ですが、この傾向は2025年も基本的に続いています。三振率は23.8%と前年と同程度で依然高めですが、キャリアワーストの2021年の33.6%よりは改善しています。また四球率はキャリアを通じて低く、全盛期の2018年でもわずか4.5%でした。2022~2024年はいずれも4%台前半、2025年も3~4%程度と依然として改善は見られません。選球して四球を選ぶタイプには相変わらずなっていない点は、好不調を通じて一貫しています。
一方で全投球に対して空振りした割合のSwStr%は13.5%と自己ベストを記録しており(前年14.8%、2023年16.7%)、ゾーン内コンタクト率も87.0%とキャリア最高水準に達しています。これはボール球のスイング(チェイス)率が43.2%から39.8%に改善したことに起因します(それでもなお下位4パーセンタイルの水準ですが)。
カブス全盛期時代のバエズは、強いスイングで多少ボール球でもとにかく長打を生み出す「悪球打ちの長距離砲」というスタイルでした。それがタイガースでは2022年以降、強引さが空回りして三振が増え、しかし長打は減るという最悪の形で崩れていました。つまり今年のバエズは、後述の打撃フォーム改造を行うことで無駄なスイングが減り、コンタクトが増えたことが好調の一因と言えるでしょう。

打球の質:ハードヒットとバレル
打球の質を示すハードヒット率(打球速度95mph以上の割合)は37.0%、バレル率(打球速度と角度が良好な打球の割合)は7.6%で、いずれもリーグ平均以下かつ2024年の数字と比較しても低いです。平均打球速度も87.7mphと、大きく改善はしていません。
つまり、2025年のバエズは「打球を強く叩く」というより「より多くボールに当てる」アプローチで成功しているといえます。実際、2025年はゴロ率が50.0%とキャリア最高レベルとなっており、打球角度は低下しています。その一方で「引っ張り気味のフライ」割合が20.7%とこれも自己最高を記録しており、捉えた打球は引っ張ってスタンドまで運ぶ傾向があります。このため本塁打こそ多くないものの長打率はある程度維持できており、コンタクトとのバランスで総合的な打撃生産を補っている状況と言えるでしょう。
打席でのアプローチの変更
バエズは打撃フォームの大幅な改造を行ったことがStatcastから読み取れます。2024年にはスタンスを33度も開いて構えていましたが、2025年は10度程度までクローズドスタンスに変え、両足の間隔も約2.7インチ広げています。さらに打席での立ち位置も本塁寄りに約7インチ前に詰めています。


加えて、バットの構えも高くして余計な動きを減らすなどスイングのコンパクト化を図りました。事実、2025年のスイングは長さが約半フィート短縮され、平均バットスピードも2〜3mphほど落ちています。この結果、強振する割合を大幅に減らし、コース際の球にもバットが届きやすくなったと考えられます。これらのフォーム修正により前述のようにコンタクト率が向上し、悪球に手を出す割合も幾分改善しました。大胆なフォーム改造とアプローチ改善が打撃復調の技術的要因と言えるでしょう。
球種ごとの成績
アプローチ改善の効果は苦手だった球種への対応にも表れています。例えば過去バエズは外角のスライダーにクルクルと空振りする悪癖で知られ、2024年はスライダーに対し打率.155とからっきしでしたが、2025年は.250まで打率を上げています。依然としてボール球のスライダーを追いがちではあるものの、見極めや粘りが向上し、スライダーへの対応が改善している点は見逃せません。このほか速球への対応は元々良い打者ですが、それも維持できています。総じて2025年は苦手球種で極端に崩れることが減り、全般的に平均以上の打席を増やしていることがStatcastの球種別成績からもうかがえます。
まとめると、2025年のバエズは全盛期と同水準の貢献をしながら、そのアプローチは必ずしも全盛期と同じではないことが分かります。全盛期(2018年頃)は強烈な打球とパワーで力を発揮していたのに対し、2025年はコンタクト重視で多少当たり損ねでも出塁し、好機で長打を放つというスタイルの変化があります。しかし三振の多さ・四球の少なさという打者としての本質的な傾向は変わっておらず、依然として細かな波はあり得ます。実際、専門家からは「数字が安定すればOPS.650程度に落ち着く可能性もある」との指摘も出ています。
守備位置変更(遊撃→中堅)の影響と打撃・守備の関係
2025年、タイガースはバエズを主に中堅手(センター)として起用するという大胆な策を取りました。それまで遊撃手(内野)一筋だったバエズが外野を守るのはメジャー公式戦で初の試みでしたが、この守備位置の変更が守備・打撃双方に良い影響を与えている可能性があります。
中堅手としての守備への適応
バエズは元々内野で卓越した守備を誇り、「El Mago(魔法使い)」の異名をとる華麗なグラブさばきで知られていました。2025年は開幕当初こそ遊撃や三塁も守っていましたが、4月下旬からセンターに本格的にコンバートされています。驚くべきことに、彼は中堅守備でもすぐに適応し高い貢献を見せています。
5月中旬時点で中堅手としてDRS(守備防御点)+4、OAA(Outs Above Average)でも+3を記録しており、わずか165イニングの守備機会であることを考えれば非常に優秀な数値です。これは「強肩」「俊足」といったバエズの身体能力が外野でも遺憾なく発揮されていることを意味し、新ポジションへの順応は上々と言えるでしょう。MLB公式サイトでも「バエズはそれまで経験の無かった中堅でまともな守備を見せている」と評価されています。
バエズ自身、「健康でさえいれば、どのポジションでもやる」と語っており、今年春のキャンプから中堅の練習に前向きに取り組んできました。元来ユーティリティ性も持ち合わせていた彼にとって、新ポジションへのチャレンジが良い刺激になった可能性はあります。内野守備で課題だった送球の不安定さ(不振期には簡単な送球ミスも散見された)から解放され、純粋に飛球処理に集中できる点も功を奏しているかもしれません。実際、中堅手としてのバエズは打球への反応やルート取りも良く、初年度とは思えない落ち着きを見せています。
守備位置変更が打撃に与えた影響
興味深いことに、中堅手にコンバートされた時期と打撃成績の上向きが重なっていると指摘されています。バエズは4月22日以降センターを主に守るようになりましたが、それ以降の打撃をStatcastで見ると平均打球速度89.7mph、バレル率10%、ハードヒット率42.5%、xwOBA .304と、それまでより指標が向上しています。これは偶然の一致かもしれませんが、守備負担の変化が打撃に良い影響を与えた可能性も考えられます。
ショートは内野の要であり、毎試合高い集中力と瞬発的な動きを求められます。バエズは近年腰や股関節を痛めており、ショートでの守備負担が蓄積して打撃に悪影響を与えていた可能性があります。センターへ移ったことで、ダイビングキャッチや送球で腰に負担をかける機会が減り、下半身のコンディション維持が容易になったことで打撃フォームが安定しているかもしれません。チームに貢献できている手応えが打席での自信にもつながっていることもあるでしょう。
一方で、守備位置そのものが打撃技術に直接影響を与えることは通常考えにくいです。打撃復調の主因は前述したフォーム改造や健康面の回復ですが、そのタイミングと中堅起用の開始時期が重なったことで、結果的に「中堅コンバートで打撃開眼」と見える部分もあるでしょう。しかしこれは守備位置のおかげというよりは、フォーム調整の効果が実り始めた時期とコンバートの時期がたまたま一致したと見るのが妥当です。ただ、中堅手として出場機会を得たことで打席数が安定的に確保され、調子を上げるリズムに乗れた点は見逃せません。もしショートのまま新人の台頭で出場機会が減っていれば、これほど打撃の復調も顕著でなかった可能性は大いにあります。
まとめ:バエズの復活は本物か?
2025年のバエズは、身体の健康回復と大胆な打撃フォーム修正によってコンタクト能力を向上させ、打撃成績を劇的に改善しました。それは全盛期の力強い打撃とはスタイルを異にしつつも同等の効果を生み出しており、不振にあえいだ2022~2024年からの見事な復活と言えます。
守備面でもショートからセンターへとコンバートし、複数ポジションでプラスの貢献をしています。その柔軟性と野球IQの高さが光っており、こうした総合力の発揮がタイガース快進撃の一因となっています。もっとも、savantの指標を見るかぎり課題は明白で、今後シーズンを通じてこの打撃好調を維持できるかは注視が必要です。しかしながら、現時点ではバエズが久々に「楽しい選手」として輝きを取り戻していることは間違いなく、タイガースファンにとってもMLBファンにとっても嬉しいサプライズとなっています。
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